9.7(2)子猫、入院 →子猫の容態が急変 /9.7(3)大粒の雨が車のガラスを /スコップを購入 

2005.9.7 ・9.7(2)※子猫、入院 →子猫の容態が急変 


 昼一時。 動物病院から電話。『こむぎちゃんの容態が急変したのですぐに来てください』 家人の携帯にメールを送り、バッグにお財布と帽子だけ放りこんで家を出る。


 タクシーを拾えた。動物病院の地図をみせて「この交差点の辺りまでお願いします」。走り出してすぐフロントガラスにぽつぽつと雨粒。「降ってきちゃった」独り言のように言うと、わたしとそう変わらないような年齢の運転手さんが首を曲げてこちらを振り向き、「そうですねぇ」と微笑んだ。そのまなざしの柔らかさにわたしはちょっと戸惑い、くるっと左の窓ガラスを向いて「なんだかおかしな天気……」と呟く。(東京で)タクシーを続けていくには、このひとの目はやさしすぎる。 それにしてもなにかが違う、この運転手さん。座席に手をつかなくてもいいくらいの静かな運転で、それなのに早い。こちらの事情を察して急いでくれてるんだ、きっと。 皮肉にも、交差点にさしかかるたびに信号が赤になる。このくらいの皮肉ではもう驚かない。 かっち、かっち、かっち……、はやる気持ちの1オクターブ下にはウィンカーの音に眠気を誘われるくらいの静かな心境が横たわっていて、それがわたしにぼんやりと窓の外を見つめさせる。さっきまで(風は強いものの)晴れていたのに急にこんなに降ってきて……ドラマみたい。でも現実なんだ、これ。


 動物病院の入り口の扉をあける。助手の女の人が出てくる。どうしてそんな目を、そんな表情をしているの。


「生きてますか」
「……。まずあの、このスリッパを履いてこちらへ」

 スリッパに履き替えて奥へ進む。もうひとりの人が治療室のカーテンを開けて待っている。

「生きてますか」
「……。こちらに、こちらにどうぞ」

 

 

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2005.9.7 ・9.7(3) 車のガラスを大粒の雨が /スコップを購入 

 


 子猫は、元の飼い主のところでその病気に感染していたのらしい。うちに来てから一歩も外に出ていない(他の猫と接触してない)し、症状の現れた時期から考えても、おそらくそうでしょう、と先生は赤い目をおさえながら言った。


 家人はわたしから十分ほど遅れて動物病院に着いた。


 子猫の体から延命器具を外したり、清拭をする間、わたしは路肩に停めた家人の車の中で待つ。
 ときおりゴッという音とともに風が街路樹の葉という葉を白く裏返し、すべてをさらっていくかのように吹きあれ、車のガラスを大粒の雨がはげしく伝い落ちる。
 帽子をもってきていてよかった。 今朝の飲みかけのレモンティーに口をつけ、鞄から帽子をだしていつもより深めにかぶる。

 


 キャリーバックを抱えた家人が車に戻ってきた。ペット霊園のパンフレットを貰ってきたという。屏風のように折り畳まれたそれを開く。石碑とセレモニールームの写真。その下で眼鏡をかけた住職がさわやかに笑っている。次の頁には動物の大きさ・弔いのメニュー・料金の一覧。ペットの墓地は人間のお寺に併設されていて、場所はうちから電車で三十分ほどの所。「今からそこ行ってみるか?」 わたしは答えず、シートベルトの金具を弄びながら後ろを振り返る。三時間前にこのひざに乗っていたキャリーバッグが、いまは後部座席でひそとも動かない。 わたしはかねてから考えていたことを家人に話した。「うん、ええかもな」家人が頷いた。

 

 帰り道、ホームセンターでスコップを探し、ついでに植木鉢と園芸用土ほか。